『阿房列車』読了

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内田百閒といえば『ノラや』『御馳走帖』『サラサーテの盤』など、多くの名随筆・小説を生んだ作家として高名です。

傲岸不遜で手前勝手、酒飲みであり金にルーズ。
けれどもなぜか憎めない。そんな愛すべきキャラクター、
「百鬼園」先生が登場する『百鬼園日記帖』は、今も長く愛されている作品でしょう。
ちなみにこの百鬼園というキャラクターは、
内田百閒自身が自身をモチーフにして生んだ、とされています。

で、内田百閒といえば、元祖「(※)乗り鉄」でもありました。
ただただ鉄道が好きで、理由も旅費もないのに何とかその2つを捻出しては市ヶ谷駅のホームに立ち、列車を待つ。
そんな鉄道と旅情へのひたむきな思いを綴った名作が、『阿房列車』です。

先日、遅ればせながらその名作を読みました。
ただし、原作ではなくコミックを。

原作自体はだいぶ前に読んだことがあります。
正直、そのコミック化と聞いて不安があったのですが、読んで見るとこれがとても楽しめました。

ネームはすべて原作からの抜粋で、
文字量も結構多め。「漫画」というよりは、挿画多めの小説、といった体裁。
『阿房列車』の売りである、風情とトホホ感の間を右往左往するような歯がゆいおもしろさが、挿画の力で更に増幅されたような一冊でした。

ひとしきり堪能したあとで、
「原作:内田百閒」というクレジット表記に目が止まってしまいました。

もしこの漫画を手にした読者が十代だとしたら、多分「ああ、昔の鉄道を扱った漫画なんだな」と認識されるのではないでしょうか。
「原作:内田百閒」というクレジットは、内田百閒という、漫画の原作を書く人がいるんだな」という認識を、まず最初に読者に与えるのではないでしょうか。

あの阿房列車を漫画にしたら、絶対面白い。そのための構成も、筆者候補も、ばっちり自分のなかにある。だから、殊更に原作の権威はいらない。そっけないくらいでちょうどいい。

そんな企画発案者の意気込みが、「原作:内田百閒」というクレジットからじわじわ伝わってくるようでした。

列車好きなくとも、『阿房列車』オススメです。

(※乗り鉄=列車に乗るのが大好きな人、の意。
 温泉に行くために列車に乗るでのはなく、列車に乗るために温泉に行く。)

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